ある お客様の お話

毎月、2回ほど 来店してくれている お客様がいる。
その お客様は 必ずと言っていいほど夜営業 閉店間際にバイクで駆けつけてくれる。

閉店間際ということもあり 店内はいつも 僕と二人きり…

食べ終わる頃に 僕は決まって こう尋ねる。

「今日のらーめんは いかがでしたか?」

お客様「まあまあだね」

という やりとりが 半年位 続いていた。


そして 3月になり
その お客様が 来店した。もちろん閉店間際である。

すると突然

お客様「あっ そうだ。俺 明後日 実家に引っ越す事になったんだ」

「えっ!?実家って 何処?」

お客様「青森。こっちの仕事 辞めて 向こうで仕事するんだ」

「そうですか~。それで最後に侍に来てくれたんですね」

お客様「別に そういう訳じゃないけど…」

まあ そんなやりとりが しばし続いて

お客様が食べ終わり いつものように

「今日のらーめんは いかがでした?」

しばらく 沈黙…そして お客様が口を開いた。



お客様「今日のは 最高に うまかったよ。今まで 有難う」

僕は 今にも溢れそうになる涙をこらえ

「こちらこそ 今まで有難うございました。向こうに行っても頑張って下さい。僕も ここ おゆみ野で お客様が また来てくださるのを 待ってますから」


3月は 別れの季節
さまざまな 別れを繰り返しながら 僕は厨房に立つ。
また 新しい 出会いを待ちわびながら…